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 生きる質量
 
 生まれたことは ありがたく
 生きることも ありがたい
 正法しょうぼうを聞くことも ありがたく
 みほとけの いでますことも  (出で座す)
 また ありがたい
             『ダンマパダ(法句経)』

 ダンマ=法・真理、 パダ=言葉 という意味で、
現存する経典のなかで最古の一つとして大切にされているものですが、ただ日本では小乗の教えとして明治時代までは重要視されてきませんでした。

 仏教というと、すべては苦である真理や、無の強調、厭世的な考えがどちらかというと普及されていますが、実はこういった考えも当時の中国思想のなかで漢字へと翻訳された背景が影を落としている。
般若心経も本来は「空」を教えるお経であるけれど、無という漢字が多いのもあってか、いつも「無」に関心が向けられ、多くの人は無だけで空を理解しようと努力されてしまう。
全ては苦であるという真理「一切皆苦」も、本来はただ「思い通りにならない」を示すものであったのが「苦」と漢訳されることでこの世はひどいものとより観念されるようになっていく。
勿論当時の中国大陸を始め日本国においても、「この世を生きることは苦しいこと」、絶望的な時事に直面することがとても多かっただろうと想像するのは容易い。

 きちんと家系図をまとめたご家庭の供養をする度に私は思う。たった二代先の時代になるだけ、それだけで幼くして亡くなる命のなんと多いことだろうか。戦争で亡くなられた命や、いけない恥ずかしいこととして隠されることの多い水子の命も実に多いもので、現代日本の死亡原因の一位はいまだ水子の命である。
日本人はごはんをいただく時でさえ、「いただきます」といのちに語りかける。忘れられるという苦しみ。それはかなしい、さみしい、私が悪いんだという自責を生み、重い業(ごう/カルマ)、質量として蓄積される。このような苦しみに語りかける「供養」、「光を照らす仏の教え(正法)」は現代にこそ必要なものでしょう。

 住職さんはよくこのように言います。
「苦しい状況というのは暗闇と一緒でしょう。暗闇にいたら何が必要ですか?
明かり。ひかりですね。
だから苦しいからこそ、つらい時だからこそ光輝く言葉を使う必要があるんです。
また言えないからこそお大師さまに助けていただくんです。仏さまに救っていただくんです。 何も言わなかったら、ずっと暗闇でしょう?
だって心が暗闇。どこまで行っても暗いまんま。
だからひかり輝く言葉を使いましょう。
暇があったら御真言を唱えましょう。手が空いたらありがたいお写経をしましょう」と。

 たった一つで変わることがある。
言葉、漢字、行動、たった一つで意味も、未来も、自分の思いも、伝わりかたも変わります。
仏教でさえ漢字一つで人々の信仰の形を牽引してきたのですから。象徴するもの、人間考えというのはそういうものと知るべきでしょう。一つが大切。言葉が大切。正しく使えるは当然として、一つの言葉や漢字、文字が何を示そうとしているのか、その質量をただしく知ろうとすることは重要なこと。思えば人様との会話も一緒ですね。

 まさに私たちは自分だけの物差しで物事を見ている事実を知るべきであって、私の定規を作る教育や出会いが如何に大切なものであるか、未来の子供たちを我が事のように慈しんで考えて欲しいものです。また言葉を失うとその民族は歴史を失うと言います。すでに私たちは過去の文献を読める者も少ない。言葉を習うとは先祖、歴史を知ること、国語とはそういう意味でありましょう。

 さて、「うまれたことは ありがたい」をまた味わってみたい。
仏教とは本来、何かにただすがる教えではなく、目のまえのこと、今を正しくを知ることで「気付いていく」教えです。 先日、名医ほど風邪は経過観察をして処置するという論を聞きました。要は風邪のウィルスを受けるほど免疫ができ、結果としては体が強くなるという原理です。人生も同じですね。安易な答えは身にならず…。
正法を聞き、現実を正しく直視する度に「生きることのありがたさ」を知るわけです。ほとけにいでましいただくは…私が弱いからであり、迷いのあるからこそであり、仏に帰依する事実があるからです。極端になって私を、他者を、何かを、ただ否定や無に帰していては見えないことがあります。三宝に帰依し、つながり、縁起をもって広く見ていき、皆で気持ちよく救われましょう。

    日切大師弘元寺 平成三十年九月廿一日



《 九・十月のお祈り・行事案内》
23日「無縁塔供養」 10時 於 : 福山霊苑
28日「弁才天護摩」  20時  
      「大黒天」  23時
10 月2日「弁才天護摩」  20時  繁栄・良縁・心願成就
3日「毘沙門天」 朝5時半 願望成就・智恵・繁栄
7日「水子供養・護摩」 10時  至心供養
19日「三宝荒神」 20時  障礙退散
21日「大師縁日の護摩」20時 写経奉納・月参り日
24日「馬頭観音 護摩」 10時(満月)
27 ~2日「柴燈護摩 前修行祈祷」 毎朝5時

11月2 日「大祈祷会」19時
3日「柴燈大護摩供」9時半 法話 12時 柴燈


《 ひとこと》
・満月9月25日。 「中秋の名月」は前日24日です。
 「十三夜」は10 月21日になりますよ。

・暦は生活の知恵が詰まっています。
十三夜や彼岸の仏事は日本独自の信仰。どうぞ暦を楽しみ、大切に

   平成30年9月21日 南無大師遍照金剛ありがとうございます。     


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